gavangavanの日記

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STAND BY ME ドラえもん見に行ってきたよ。

STAND BY ME ドラえもん見に行ってきました。ドラえもんの劇場版は数あれど、今回のは初の3DCG版ドラえもんで、1巻先頭から7巻最初までのいくつかの話を軸にしたストーリー。たまごの中のしずちゃんしずちゃんさようなら、雪山のロマンス、のび太の結婚前夜はずいぶんのちの巻からの採用。

ドラえもんのび太の友情の深化が中心なんだけど、こう編成することでしずかちゃん(およびジャイ子も)の成長すら描いている。なかでも雪山のロマンスの改編は本作の最善パートで、F先生もきっと唸っているのではないか。よほどのドラ好きが考えたに違いない。

原作の雪山のロマンスは、風邪で情けなく寝込んだ青年のび太に代わって、少年のび太が遭難したしずかちゃんを助けに雪山に単身乗り込むストーリーなのは今回の映画と同じ。しかしオチは違っていて、最後までしずかちゃんに助けられっぱなしでおかげで無事下山することができ、しずかは「心配でほっとけないから」という理由でのび太との結婚を承諾するというものだった。本作は完全にこれを倒立してみせた。

しかけとしては、ようするに「正義の味方セルフ仮面」、「ドラえもんだらけ」、「のび太の大魔境」の逆張りなのだが、ドラファンならだれでもこれはその反転オマージュだとわかるだけにカタルシスがすごい。助けに来るのがこの時代の青年のび太本人なのだから。このプロットによって本来対峙すべきこの時代の青年のび太としずかがきちんと対になって存立するのである。そしてそれだけでは終わらない。

尺の関係もあるので難しいかとおもっていたら写真でしずかちゃんとノビスケが登場したのみの「のび太のおよめさん」回(この話は小学4年生の初出時およびてんとう虫コミックス6巻ではさようならドラえもんの直前回である)。この話では、本当に大人として成長したのび太(近眼もなおり、ノビスケが小学生なのを見れば結婚から10年ほどたっている)と少年のび太の対話が描かれている。このシーンは、もし今回のようなそもそもの初めから「さよきた」までをフィーチャーする話なのであれば是非とも本編に取り込んで欲しかったエピソードなのだけど、まさにそれをここで翻案してきたのだ!青年のび太と少年のび太のエールの交換。それをしずか救出作戦という具体的な本人の記憶の形で結晶化させてみせた。まさにこれはやった!と思った。

ここの青年のび太は原作版雪山のロマンスに登場したただのなさけないのび太ではもはやないのだ。いや考え方によってはあの雪山での子供のび太の機転こそがこの時代ののび太を一気に成長させたとも見ることも出来る。きっとそうに違いない。

このパートは本作随一の良作部分で、スタドラ全体をただのリメイクCGアニメではない「新作」に押し上げる鍵になっている。ここまでやってくれると贅沢を承知でもっと高望みしたくもなるのだ。それはアニメ版のび太の結婚前夜のオリジナルエピソードだ。

劇場アニメ版のび太の結婚前夜では、原作にはないTVアニメ版オリジナルエピ「しずかのネックレス」(wikipediaによれば83年OA)とのリンク、および猫の飼い主を探しにしずかやジャイアンスネ夫も巻き込んで空港へ急ぐという劇場版オリジナルエピソードが追加されている。しずか父の「のび太くんを選んだ君の判断は間違ってないと思うよ」「あの青年は人の幸せを願い人の不幸の悲しむことのできる人だ」をこれらの具体的なエピソードでしっかり裏打ちしているのだ。それもTV版オリジナルのネックレスのエピソードと合わせてしずか父母の両方から。この珠玉のシナリオをなんとか今回活かせなかったかと思えてならない(もちろん無理は承知)。

劇場版「のび太の結婚前夜」ではしずかの父への告白はドラえもんの正直電波ではなく自ら切り出していたりする。このあたりどっちを採用すべきか悩ましいところではある。今回スタドラにはのび太の側にムシスカン自殺未遂事件?のエピがあるだけにしずか側にもなにかエピソードがほしかったところ。

たぶんあの時系列では雪山からしずかを救出したのはぜんぶその時代ののび太ということになっている(しずかもそう思っているだろう)からそれが結婚の意志を固める礎石になっているならもやもやが否定出来ない。いやのび太のことだから事の顛末はしずかにもう説明しているのかもしれない。

ラストのさようなら/帰ってきたドラえもんはほぼ原作通り。テンポが少し悪いのは本来さようならで終わっているところなのでうまく繋がないと後日談が蛇足にみえてしまうところか。最後のくす玉シーン、ジャイアンスネ夫はしずかに促されてのび太にひどい嘘の詫びを入れに来たのかもしれないね(98年の劇場公開版帰ってきたドラえもんではまさにそういう展開になっているらしい)。

しずかだけでなく、今回本編ではジャイ子にも出番がある。原作当初のジャイ子は不憫なキャラで、のび太にふりかかる不幸の象徴として(どころか根源としてすら)描かれていて、そこからのび太がいかに脱出してしずかちゃんという希望にたどり着けるのかというのが物語の基本フレームだったのだけど、F先生のすごいところはこのジャイ子に漫画家への道を託すことで彼女を救い上げたことだ。なにせ「漫画家」なのだ。これは並々ならぬ思いだ。これまた尺もあるのでむずかしいと承知の上だがジャイ子エピソード(ちゃんとベレーかぶって絵を描いているシーンが冒頭から差し込まれている)なら茂手もて夫くんをだしてほしいという欲もあるのだけどそれは望み過ぎか。

本作は3DCG作品なので、3D上映版が存在し(私が見に行ったのは2D版である)そのために過剰に3Dぐりぐりなモーションシーンがある。これは正直いらなかったかもしれない。ドラえもんはアクション映画ではないので。やりたい気持ちはわかるのだけど。

総じてよい映画であった。ビッグタイトルだけにコケが許されないプレッシャーのなかスタッフは良作を生み出したと思う。泣きをあえてプッシュしなくても十分客は呼べたのではないか。実際300人ほどの箱のほとんどの席が埋まっていた。小学生も多数きていた。

となりの席が小学生の女の子たちであったがしっかり泣かされていたようだ。しかしそのとなりのおっさん(私)は泣くどころか、押入れの星野スミレやジャイアンのリサイタル衣装にやたら反応して声を上げそうになるので、さぞかし気味悪かったことであろう←。